経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)Kindle版
需要と供給が釣り合って市場の価格が安定することはありえない。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P6
- 売買取引には微小な誤差を拡大するカオスのしくみが内在しており、需要と供給が釣り合って市場の価格が安定することはありえない。
- 市場の価格変動を大きくするのは、ディーラーの過去の価格変化に追随して先読みをする効果であり、暴落やバブルは、この効果が強く働いた結果生じる。
- 2の効果のために、市場価格の変位の統計性はブラックショールズの理論が仮定するような正規分布よりはるかに大きな裾野を持つべき分布にしたがう。
- 市場価格は、上位5%の大きな変動だけで全体的な動きの特徴を捉える
- 短い時間スケールでの市場価格の変動は、非常にくせのある変動であり、短期の予測は十分に可能である。
ある程度以上大きな時間スケールで見てやると、市場価格が上がるか下がるかは、ほとんど確率的にランダムな動きと見分けられないようになります。
市場価格が安定しないのは、ディーラーの売値と買値のほんの僅かな価格の差が、取引の有無を分け、取引ごとに誤差を増幅するカオスのしくみが内在されているからです。特に投機目的で売り手の立場と買い手の立場を自由に入れ替わるようなディーラーが大部分を占めている限り、カオスの効果によって市場価格に予測困難な変動が起こることは避けられないことなのです。その結果、ある程度以上大きな時間スケールで見てやると、市場価格が上がるか下がるかは、ほとんど確率的にランダムな動きと見分けられないようになります。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P79
カオスによって市場価格の変動が予測困難になり、確率的な振る舞いが生じるのであれば、その結果として、市場価格の変動がフラクタル性を示す
市場価格がフラクタル性を有することも、実は、このカオスの問題と密接に関連しています。フラクタル性は、市場価格の上下変動が確率的なものとしてみなせることによって説明できます。ということは、カオスによって市場価格の変動が予測困難になり、確率的な振る舞いが生じるのであれば、その結果として、市場価格の変動がフラクタル性を示すようになるというわけなのです。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P82
自発的な市場のゆらぎのほうが通常ずっと大きく重要
ニュースで市場が動く事例はあるのですが、自発的な市場のゆらぎのほうが通常ずっと大きく重要だということです。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P87
95%を占める小さな変動は、ランダムウォークの理論に近い変動なのですが、大きなスケールでの為替変動にはほとんど寄与していない
95%を占める小さな変動は、ランダムウォークの理論に近い変動なのですが、大きなスケールでの為替変動にはほとんど寄与していないのです。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P94
一般に、べき分布にしたがうような現象にはフラクタル性があります
一般に、べき分布にしたがうような現象にはフラクタル性がありますし、また、フラクタル性があるような現象は何かの量がべき分布にしたがっています。
中略
破片の分布のもうひとつのおもしろい性質は、大きな破片だけを寄せ集めただけで、だいたい元の原形が推定できることです。中ぐらいの破片は、大きな破片の隙間を埋め、小さな破片はさらに残った隙間を埋めるように配置されているのです。このように、べき分布にしたがう現象を語る時に最も重要な意味を持つのは、数としてはごくわずかなのですが、大きな破片です。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P102
3分間くらいのスケールで移動平均をとると、取引間隔のゆらぎが指数分布にしたがうことが確認できました。
T=3、すなわち、3分間くらいのスケールで移動平均をとると、取引間隔のゆらぎが指数分布にしたがうことが確認できました。これが意味することは、為替のディーラー達は過去3分間程度の取引の様子を見ながら、取引頻度が高くなると後れをとらないように自分の時計を速く進め、取引数が減少すると時計の進行をゆっくりにして、ちょっと一息つく、というような傾向があるということです。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P105
インフレが発生している状況では、物価の上昇率、あるいは、通貨価値の下落率は、かなり先まで予測することが可能
インフレが発生している状況では、物価の上昇率、あるいは、通貨価値の下落率は、かなり先まで予測することが可能です。いわゆるバブルは、特定の商品に関してインフレと同じように価格が上昇する現象ですが、この場合にも価格を予想することは可能です。ただし、インフレやバブルがいつ終わるか、ということを予測することは簡単ではありません。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P114
大きな地震が発生するためには、地殻に非常に大きな歪のエネルギーが蓄積されていることが必要
大きな地震が発生するためには、地殻に非常に大きな歪のエネルギーが蓄積されていることが必要であり、また、大きなエネルギーが解放される時には、一瞬で全部が解放されるのではなく、予兆が見られ、その後でまとまって解放されることが多いからです。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P115
1分以内ではトレンドが発生したように見えても市場価格は直前の価格に引き戻される可能性が強いが、もしも、およそ1分間以上同じ方向に円ドルレートが動いたならば、トレンドが発生し、その方向にさらにレートが動きやすくなる
1分以内ではトレンドが発生したように見えても市場価格は直前の価格に引き戻される可能性が強いが、もしも、およそ1分間以上同じ方向に円ドルレートが動いたならば、トレンドが発生し、その方向にさらにレートが動きやすくなるということです。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P119
アトラクターを利用した予測の方法は、あらかじめパターンを用意しておくのではなく、データから自動的にパターンを作り出していく方法である
アトラクターを利用した予測の方法は、あらかじめパターンを用意しておくのではなく、データから自動的にパターンを作り出していく方法である、と言うこともできます。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P123
ボラティリティのこのような性質は、相関関係などの基本的な統計量を観測するだけである程度の予測が可能
市場が穏やかだった時、突然大きな変動が何らかの原因で発生し、その乱高下が持続する、ということがしばしば観測されます。一度大きくなったゆらぎの幅は、非常にゆっくりと減衰していくことが確認されています。大きなゆらぎの持続時間は、長い場合には、1ヵ月を超えるような場合もあります。ボラティリティのこのような性質は、相関関係などの基本的な統計量を観測するだけである程度の予測が可能です。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P130
システム自体の性質として、ちょうど臨界的な状態を保つしくみを内在した現状が自己組織臨界現象
均質でない物質に歪を加えても全体に一様に歪が分布するわけではなく、材質中の弱い場所に集中する性質があります。したがって、まずそこで破壊が起こります。するとその部分の歪は解放され、周囲のまだ破壊が起こっていない場所に分散されます。
中略
時には、ぎりぎりまで歪みが貯まった大きな領域で一度に大きな破壊を起こすこともあります。その結果、相転移のちょうど境目の状態が持続することになり、破壊のエネルギーの分布がフラクタル性を示すようになあるわけです。このように、システム自体の性質として、ちょうど臨界的な状態を保つしくみを内在した現状が自己組織臨界現象なのです。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P136
電圧がかかっていなくて、平均的には電流が流れていないような状態でも、ひとつひとつの電子がランダムに運動している
電気回路のノイズは、電気回路を構成する電子が熱でランダムにフラフラと動いていることに原因があります。例えば、電圧がかかっていなくて、平均的には電流が流れていないような状態でも、ひとつひとつの電子がランダムに運動しているため、ミクロに見れば、微弱な電流が右に流れたり左に流れたりしているわけです。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P139
ハイパーインフレも起こりうるのに対し、デフレの価格下落に関してはそれに対応するようなことがない
インフレは集団心理で発生・成長し、物価上昇率が短期間に1億倍にもなるハイパーインフレも起こりうるのに対し、デフレの価格下落に関してはそれに対応するようなことがないので、両者は全く異なる現象とみなすべきです。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P148
ハイパーインフレも起こりうるのに対し、デフレの価格下落に関してはそれに対応するようなことがない
大きなスケールにするとゆらぎが相対的にどんどん小さくなるのは、市場価格の変動が臨界点から外れて需要が常に超過したようなインフレ状態にあるからに他ありません。
もしも、市場が臨界状態を維持していれば、市場価格はフラクタル性を示すので、円ドル市場価格で確認したように大きなスケールでも小さなスケールでも、同じような変動に見えることになるわけです。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P148
所得は一社一社でかなり激しく変動しているのですが、企業全体の分布を見ると非常に安定している
所得は一社一社でかなり激しく変動しているのですが、企業全体の分布を見ると非常に安定している
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P175
価値観の多様性をできるだけ豊かに保っておいたほうが、未来への適応力が高くなる
予測不可能なことが未来に起こるということを前提とすると、最も大切なことは、現在の基準でベストな方法ひとつに固執するのではなく、常にいろいろな代案をできるだけたくさん寄せ集めておき、選択の可能性を広くしておくことです。人類全体としても、価値観の多様性をできるだけ豊かに保っておいたほうが、未来への適応力が高くなるはずです。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P221
お金のかからない研究を広くやったほうが、一般的には大きな果実をつかめるチャンスは増加します。
べき分布は、サンプル数を無限大とするような数学的な平均を考えると、期待値は無限大になります。しかし、有限回のサンプルで評価すると、小さなものだけしか得られないで損をすることが多いのですが、運がいいと莫大な利益を得ることができます。
中略
サンプル数を増やせば増やすほど大きなものを当てる可能性が高まりますから、基本的に研究開発はできるだけ沢山したほうがいいということです。
中略
無駄を減らすには、第一に同じ失敗を繰り返すような研究をしないことです。そのためには、一度やった研究は、失敗でも成功でもきちんと記録を残し、人類全体の利益を考えて、それを特許や論文やホームページなどで公開することです。
同じお金をかけるなら、リスクのある高額の研究を少数だけ実施するよりも、お金のかからない研究を広くやったほうが、一般的には大きな果実をつかめるチャンスは増加します。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P266
数多くの失敗例を学び、それらを並べて検討する
数多くの失敗例を学び、それらを並べて検討することで、同じ失敗を繰り返さずに済み、さらに、多くの人が見逃している重要な何かを自分なりに見当をつけることができ、独創的な研究の道を速やかに進むことができたはずです。
経済物理学(エコノフィジックス)の発見(光文社新書)P268