「代替」という発想だ。目的の達成にあまり役立たない資源は、投入しないか投入を控える。逆に、目的の達成に効果的な資源は、できるだけたくさん投入する。どの資源も、それがもっとも価値がある場所で使うのが理想的だ。あまり役に立っていない資源はテコ入れして、役に立っている資源のふるまいを真似させる。 カオス理論は、その名前とは裏腹に、すべてのものが絶望的で理解不能な混乱状態にあると言っているわけではない。そうではなく、無秩序の背後に「自己組織化」の論理、予測可能な非線形の論理が隠れている。 八〇対二〇の法則は強力なツールであり、どんなものについても、それが非線形かどうかをテストできる。原因の二〇%が、結果の八○%につながっているかどうか。ある現象の八○%は、関連する現象の二〇%しか関係がないのかどうか。そう自問してみるといい。この方法は、非線形とはどういうものかを理解するうえで役に立つばかりでなく、不釣り合いに影響力の大きいものを特定するときに役立つ。 八〇対二〇の法則は、カオス理論が発見した「フィードバック・ループ」とも一致しているし、それによって説明できる。フィードバック・ループとは、最初はごく小さな動きだったものが、次第にその影響力を増していき、最後には予想もできなかった結果をもたらす。
一例として、たまにビールを飲む友人一○○人を対象に、この分析を行ってみた。友人一〇〇人に、前の週にグラス何杯のビールを飲んだかを聞く。ここまでは、ごく普通の統計手法と変わらない。「八○対二〇分析」がユニークなのは、飲んだ量を多い順に並べ、順位のパーセンテージと、飲んだ量のパーセンテージを比較する点にある。 こうした関係を比べてみると、測定する数量の八○%が人や物の二〇%に起因していることが多かった(こうした観察は、一九五○年代から盛んに行われていたようだ)。 ビール会社が販売促進や嗜好調査をしたいと思えば、上位二〇%(ビールをたくさん飲む人)にはたらきかけるのがいいに決まっている。 八○対二〇の法則を使うときには、固定観念を捨てて、他人が行かない道を探さなければならない。誰もが注目している変数(この場合は、最近のベストセラー・リストに載っている本)に目を奪われ、みなと同じように、ベストセラーさえ山積みにしておけば儲かるなどと考えてはいけない。これは線形的な発想だ。貴重なヒントは、多くの人が見過ごしている非線形の関係に目を向けることから得られるものだ。 「八○対二〇思考」では、まず、どういう要因の二〇%が結果の八○%を決定するのかを、つねに問いかける。答えはわかりきっていると思ってはいけない。時間をかけ、固定観念から離れてじっくり考えてみる。枝葉ではなく、大本を見つける。雑音にかき消されている美しい旋律に耳を澄ますのだ。
八〇対二〇思考は、間違っている常識をみつけだす(常識というのは間違っていることが多いものだ)。人生につきものの無駄なこと、最適でないものをみつけだし、まずは日常のなかでそれを改めていくことから進歩ははじまる。このとき、常識は役に立たない。 原因を探し出そうとしてはいけない。とくに失敗の原因は追求しても無駄だ。自分が幸せで、かつやりがいを感じられる環境を思い浮かべ、どうすればその環境をつくれるかを考えたほうがいい。 大事なのは、ひらめきと選択である。心を落ち着ければ聴こえるかすかな声は、思っている以上に、人生にとって重要なものである。ひらめきという幸運は、ゆったりした気分でいるときに訪れる。そして、ひらめくまでには時間がかかるが、世間の常識に反して、時間はたっぷりあるのだ。
専門化はこの世の深遠な法則、普遍的な法則の一つである。生命自体がそうして進化してきた。それぞれの種が生態系の新しい隙間を見つけ、特性に磨きをかけている。得意な分野に特化しない中小企業はつぶれる運命にあり、得意な分野をつくらない個人は賃金奴隷として一生を終える運命にある。
わたしの言う「適度なエネルギー」とは、「喜びを奪うことをするな」という意味だ。喜びが増えることなら、それをすることで逆にエネルギーをもらうのだから、言うことない。しなければいけないのは、自分が好きになれる仕事、周りに評価され、報酬をもらえる仕事をみつけることだ。報酬はカネでも評価でも、あるいは愛でもいい。ほんとうのところは、これらの組み合わせが必要だ。ペットの子犬でもないかぎり、カネだけでも、愛だけでも生きていけないのだから。
そもそも、無駄を生み出し、最適ではない状態をつくり出したのは、常識なのだから。八○対二〇の法則のパワーは、常識にとらわれず、違うやり方をするところにある。そのためにはまず、多くの人はなぜ間違ったことをやっているのか、あるいは持てる力のほんの一部しか発揮していないのかを考えてみよう。出てきた答えが常識的なものであれば、八○対二〇思考をしているとは言えない。
周りの人に喜びを与えること、自分にとっても喜びになるが貴重なエネルギーを枯れさせないようなことを見つけるには、一生かかるかもしれない。ここまで読んできた読者には、もうこれで十分かもしれない。答えがわかっている人もいるだろうし、潜在意識に聞けば、数時間か数日で答えが手に入るかもしれない。